・エージェント夜を往く
新卒就活は多くの人々にとって学生生活で最も大きなヤマだ。時間もかかるし、求人を自分で探してこなくてはいけない。そして何よりめんどくさい。
「探す」「話を聞く」「足を運ぶ」というたったの3工程が4年間を怠惰に過ごした私にはきわめて堪えるものがあった。
さて、そんな学生の重大イベントこと就活において学生をけしかける謎のビジネス集団「就活エージェント」についてお話させていただきたい。
・大手病とは?
「診断の結果、あなたは大手病です」
こんなことを突然言われたら貴方ならどうだろうか。しかも診断の主は白衣を着た医者ではなくありきたりなスーツ姿の大人たち。
「何だよそれ」
まぁこれが妥当な反応である。
大手病とは、新卒就活において大手企業しか受けない人を指す言葉である。たしかに大手のみを志望するのはリスクがある。大手企業志望者が激突する壁とは異常な求人倍率の多さだ。リスクヘッジで滑り止めを受けずに大手だけ選考を受けるといつまでも内定ナシなんて事も珍しくない。しかし多くの大手企業には安定性、分厚い福利厚生や存分な教育体制など、リターンも相応なのだ。新卒でしか入れない会社も存在するし、私は特別な能力が要らない新卒のポテンシャル採用だからこそ積極的に狙うべきは大手だと考えているが、これをあたかも病気のように呼称するのは極めて恣意的ではないだろうか。しかし、実際に私はこの診断をジョ○コミットというサービスのエージェントに下されたのだ。
・ジョ○コミットとの出会い
さぁ3年後期、就活に向き合うことなんて無かった無知のままの私。何から手をつけたら良いか分からない。そんな中私を1本の電話で就活へ導いてくれたのはジョ○コミットのエージェントである。彼からzoomでヒアリングをしてもらい、就活の進め方を教わり、ようやく自分にムチを入れて企業探しに勤しんだ。私は偽りなくエージェントに感謝していたし、彼らとの信頼関係は良好だった。
私はやりたいことも無いし、たくさんゲームをしたいから休日の多い企業を探し出した。と同時にエージェントからも求人を紹介してもらっていた。
・疑念
就活が本格化してからはバンバンと選考を入れた。エージェント紹介の企業も受けに行っていたのでこれが中々忙しい。そして間をぬってエージェントと定期的に面談で志望度ランキングなるものを伝えていた。
志望する企業は大手企業がメインだった。望み通りの休日が多くてそこそこ年収が狙えそうな会社は大手が多め。対して彼が紹介するのは「成長」を重視したベンチャーばかりだった。紹介された企業が第一志望では無いことを確認するや否やエージェントは
「君さ、大手病じゃない?」
と言い出した。
画面越しでも彼の目は何か違って見えた。そして私の考えを正そうと面談の時間ほとんどを使って熱弁し始めたのだ。
それでは彼の「大手病論」をダイジェストでお送りしよう。
「大手=安定なんて今は古い」
「僕も大企業にいたけど成長はできないよ」
「これからはVUCA※の時代。ネームバリューじゃなくて自分で考える時代だよ」
※ 先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態
「入社してもミスマッチで退職したら意味が無い」
「人材長くやってるけど、その企業あんまりいい噂聞かないよ」
…とのこと。うん、本性現したね。ヒト様を病呼ばわりとは無礼な者だ。
「大手=安定じゃないって言いますけどベンチャー企業の10年後生存率って6%ですよね?」
返す刃で紹介されたところの企業説明会で得た情報を受け売りしてみた。皮肉にも彼の紹介によって知り得たお話だ。
返答は…
「まあ最終的には自分で決めたらいいけどさ」
とのこと
その後もzoom面談は続けていたが、平気で数十分遅刻したり、紹介された企業の内定が出た時だけ承諾しようコールを掛けてきたりとあまりに露骨で雑になってきたのでブッチした。
・流されやすい人はエージェントを使うな
結局私は自分でエントリーした会社の内定を承諾した。エージェントの恩恵は就活のやり方を学べた事、そして志望度の低い企業で面接の練習ができたことだ。しかし、
- 意思決定にバイアスがかかる
- 求人の質が悪い
- 無駄な時間を奪われる
就活においてこの3点は致命的だと思う。右も左も分からない学生にとって架空の「正解」を提示されてしまえば必ず考え方に歪みが生じる。それに興味の無い会社の面接に行かされるよりも志望する会社を1社でも増やすべきだ。幸いにも担当があまりにハズレだったので違和感を持てたが、違う担当なら自分の意志とは異なる選択をしていたかもしれない。他人の言葉に流されやすい人は自分で企業選びを行うことを強く推奨する。